ギターの弦を指ではじくと、弦の一部分に作られた変形が左右へ伝わっていきます。
声を出せば、空気の振動が音として耳まで届きます。地震が起これば、地下で発生した振動が地面を伝わります。
このような「形や振動が空間を移動する現象」を記述する代表的な数式が、波動方程式です。
$$\boxed{\frac{\partial^2u}{\partial t^2}=c^2\frac{\partial^2u}{\partial x^2}}$$
簡略化して、
$$\boxed{u_{tt}=c^2u_{xx}}$$
と書くこともあります。
以前の記事で扱った熱方程式は、温度分布の凸凹を時間とともに消していく方程式でした。
一方、波動方程式は、凸凹を消すのではなく、形や振動を別の場所へ運ぶ方程式です。
熱方程式は形を消す。波動方程式は形を運ぶ。
本記事では、弦の振動を例にして、
- 波動方程式がどのように導かれるのか
- なぜ時間について2階微分するのか
- 右向きの波と左向きの波
- ダランベールの公式
- 有限伝播速度
- エネルギー保存
- 反射と定常波
- 熱方程式との違い
を、初学者向けに数式と直感の両方から解説します。
波動方程式とは何か
ぴんと張った細い弦を考えます。
弦に沿った位置を $x$、時刻を $t$ とし、時刻 $t$ における位置 $x$ の上下方向の変位を、
$$u(t,x)$$
と表します。
例えば、
$$u(t,x)>0$$
なら、その場所の弦が基準となる位置より上にあります。
反対に、
$$u(t,x)<0$$
なら、基準位置より下にあります。
弦の振動を表す基本的な波動方程式は、
$$\boxed{u_{tt}=c^2u_{xx}}$$
です。
ここで、
$$u_{tt}=\frac{\partial^2u}{\partial t^2}$$
は、弦の上下方向の加速度を表します。
一方、
$$u_{xx}=\frac{\partial^2u}{\partial x^2}$$
は、弦がその場所でどのくらい曲がっているかを表します。
$c>0$ は、波が弦を伝わる速さです。
つまり波動方程式は、
$$\boxed{\text{弦の曲がり方が、その場所の加速度を決める}}$$
という法則を表しています。
なぜ時間について2階微分するのか
熱方程式では、時間について1階微分が現れました。
$$u_t=\kappa u_{xx}$$
これは、温度分布の形から、その瞬間の温度変化が直接決まる方程式でした。
一方、波動方程式では、
$$u_{tt}=c^2u_{xx}$$
のように、時間について2階微分が現れます。
時間について1回微分した $u_t$ は速度です。
さらにもう1回微分した $u_{tt}$ は加速度です。
波動方程式はニュートンの運動方程式、
$$\text{質量}\times\text{加速度}=\text{力}$$
をもとにしているため、時間について2階微分が現れます。
弦が曲がると、張力によって元の位置へ戻そうとする力が働きます。
その力が加速度を生み、弦が振動するのです。
弦の振動から波動方程式を導く
波動方程式を、実際に弦の運動から導いてみましょう。
弦の張力を $T$、単位長さ当たりの質量を $\mu$ とします。
弦の短い区間、
$$x\leq y\leq x+\Delta x$$
を取り出します。
この短い区間の質量は、
$$\mu\Delta x$$
です。
弦の両端には張力 $T$ が働きます。
弦の傾きが十分小さいと仮定すると、上下方向に働く力の差は、おおよそ、
$$T\big[u_x(t,x+\Delta x)-u_x(t,x)\big]$$
と表せます。
一方、この区間の上下方向の加速度は、
$$u_{tt}(t,x)$$
です。
ニュートンの運動方程式より、
$$\mu\Delta x\,u_{tt}(t,x)=T\big[u_x(t,x+\Delta x)-u_x(t,x)\big]$$
となります。
両辺を $\Delta x$ で割ると、
$$\mu u_{tt}(t,x)=T\frac{u_x(t,x+\Delta x)-u_x(t,x)}{\Delta x}$$
です。
ここで $\Delta x$ を0へ近づけると、
$$\mu u_{tt}=Tu_{xx}$$
が得られます。
したがって、
$$u_{tt}=\frac{T}{\mu}u_{xx}$$
です。
ここで、
$$c=\sqrt{\frac{T}{\mu}}$$
と置けば、
$$\boxed{u_{tt}=c^2u_{xx}}$$
となります。
これが、弦の振動を表す1次元波動方程式です。
この導出では、次のような理想化をしています。
- 弦の振幅は小さい
- 弦の傾きは小さい
- 張力 $T$ は一定
- 弦は均質で、線密度 $\mu$ は一定
- 空気抵抗や摩擦は無視する
現実の弦では摩擦や非線形効果がありますが、小さな振動を考える範囲では、線形波動方程式がよい近似になります。
波の速さは何によって決まるのか
先ほど、
$$c=\sqrt{\frac{T}{\mu}}$$
と置きました。
この公式から、波の速さについて次のことが分かります。
張力 $T$ を大きくすると、
$$c\text{ は大きくなる}$$
ので、波は速く進みます。
一方、単位長さ当たりの質量 $\mu$ を大きくすると、
$$c\text{ は小さくなる}$$
ので、波は遅く進みます。
つまり、
$$\boxed{\text{強く張った軽い弦ほど、波は速く伝わる}}$$
ということです。
ギターの弦を強く張ると音が高くなり、太く重い弦では音が低くなる理由にもつながります。
右へ進む波を確かめる
任意の2回微分可能な関数 $F$ を使って、
$$u(t,x)=F(x-ct)$$
と置きます。
この関数が波動方程式を満たすか、実際に確かめてみましょう。
時間 $t$ で微分すると、
$$u_t(t,x)=-cF'(x-ct)$$
です。
さらにもう1回微分すると、
$$u_{tt}(t,x)=c^2F”(x-ct)$$
となります。
一方、位置 $x$ について微分すると、
$$u_x(t,x)=F'(x-ct)$$
であり、さらにもう1回微分すると、
$$u_{xx}(t,x)=F”(x-ct)$$
です。
したがって、
$$u_{tt}(t,x)=c^2u_{xx}(t,x)$$
が成り立ちます。
よって、
$$\boxed{u(t,x)=F(x-ct)}$$
は波動方程式の解です。
では、この解はどのような動きを表しているのでしょうか。
時刻 $t=0$ では、
$$u(0,x)=F(x)$$
です。
時刻 $t>0$ では、
$$u(t,x)=F(x-ct)$$
となります。
これは、関数 $F$ のグラフを右方向へ距離 $ct$ だけ平行移動したものです。
つまり、
$$\boxed{F(x-ct)\text{ は速度 }c\text{ で右へ進む波}}$$
です。
左へ進む波
同様に、
$$u(t,x)=G(x+ct)$$
と置きます。
計算すると、
$$u_{tt}=c^2G”(x+ct)$$
および
$$u_{xx}=G”(x+ct)$$
となるので、
$$u_{tt}=c^2u_{xx}$$
を満たします。
したがって、
$$\boxed{G(x+ct)\text{ は速度 }c\text{ で左へ進む波}}$$
です。
符号が少し直感に反するかもしれません。
$F(x-ct)$ は右向きに進み、$G(x+ct)$ は左向きに進みます。
例えば、$F$ の山がもともと $x=0$ にあったとします。
時刻 $t$ では、
$$x-ct=0$$
となる位置、つまり、
$$x=ct$$
に山が移動します。
そのため、右向きに進むことが分かります。
一般解は右向きと左向きの波の和
波動方程式は線形なので、2つの解を足しても再び解になります。
したがって、
$$\boxed{u(t,x)=F(x-ct)+G(x+ct)}$$
も波動方程式の解です。
1次元の波動方程式では、適切な条件のもとで、一般の解をこの形に表せます。
つまり、1次元の波は、
- 右へ進む波
- 左へ進む波
の和として理解できます。
この表示をダランベールの解といいます。
波動方程式の複雑な運動も、左右へ進む2つの波へ分けると理解しやすくなります。
初期変位だけでは未来が決まらない
熱方程式では、最初の温度分布、
$$u(0,x)=f(x)$$
を与えると、基本的にはその後の温度分布が決まりました。
しかし、波動方程式は時間について2階の方程式です。
そのため、最初の位置だけでは未来は決まりません。
初期変位、
$$u(0,x)=f(x)$$
に加えて、初期速度、
$$u_t(0,x)=g(x)$$
を与える必要があります。
例えば、同じ形に変形した弦でも、
- 静かに手を離す
- 上向きに動かしながら手を離す
- 下向きに動かしながら手を離す
のでは、その後の動きが異なります。
位置と速度の両方が分かって、初めて未来の運動が決まるのです。
ダランベールの公式
初期条件、
$$u(0,x)=f(x)$$
および、
$$u_t(0,x)=g(x)$$
を満たす1次元波動方程式の解は、
$$\boxed{u(t,x)=\frac{f(x-ct)+f(x+ct)}{2}+\frac{1}{2c}\int_{x-ct}^{x+ct}g(y)\,dy}$$
で与えられます。
これをダランベールの公式といいます。
第1項、
$$\frac{f(x-ct)+f(x+ct)}{2}$$
は、初期変位 $f$ が右向きと左向きに分かれて進む部分です。
第2項、
$$\frac{1}{2c}\int_{x-ct}^{x+ct}g(y)\,dy$$
は、初期速度 $g$ の影響を表しています。
特に、最初の弦をある形に変形し、静かに手を離した場合は、
$$g(x)=0$$
です。
このとき、
$$\boxed{u(t,x)=\frac{f(x-ct)+f(x+ct)}{2}}$$
となります。
最初の波形は、高さが半分の2つの波に分かれ、左右へ進んでいきます。
波動方程式が持つ7つの重要な性質
右向きと左向きの波に分かれる
ダランベールの解、
$$u(t,x)=F(x-ct)+G(x+ct)$$
から、1次元の波は右向きの成分と左向きの成分に分けられることが分かります。
最初に一つの山を作って静かに手を離すと、その山は左右へ分裂します。
右向きの波と左向きの波は、それぞれ速度 $c$ で進みます。
これは、弦をはじいたときに変形が両端へ向かって広がる仕組みを表しています。
波は有限の速度で伝わる
ダランベールの公式を見ると、時刻 $t$、位置 $x$ における解は、
$$x-ct\leq y\leq x+ct$$
の範囲にある初期値だけによって決まります。
つまり、位置 $x$ から距離 $ct$ より遠くにある初期状態は、時刻 $t$ の時点では位置 $x$ に影響を与えません。
$$\boxed{\text{波の影響は速度 }c\text{ を超えて伝わらない}}$$
ということです。
これを有限伝播速度といいます。
例えば、原点 $x=0$ で生じた振動が位置 $x=L$ に届くためには、少なくとも、
$$t=\frac{L}{c}$$
だけの時間が必要です。
これは熱方程式との重要な違いです。
熱方程式では、数学上は正の時間が少しでもたつと、影響が全空間へ届きました。
波動方程式では、影響が届く範囲が明確に制限されています。
理想的な波は形を保って進む
右向きの波、
$$u(t,x)=F(x-ct)$$
は、関数 $F$ の形を変えずに右へ移動します。
左向きの波、
$$u(t,x)=G(x+ct)$$
も、形を変えずに左へ移動します。
したがって、理想的な1次元波動方程式では、
$$\boxed{\text{波形がそのままの形で運ばれる}}$$
という性質があります。
例えば、三角形の波形を初期値にすれば、三角形の形を保ったまま移動します。
角のある波形であれば、その角も基本的にはそのまま運ばれます。
熱方程式のように、時間とともに角が丸くなるわけではありません。
複数の波を重ね合わせられる
波動方程式は線形です。
$u$ と $v$ がそれぞれ、
$$u_{tt}=c^2u_{xx}$$
および、
$$v_{tt}=c^2v_{xx}$$
を満たすとします。
定数 $a,b$ に対して、
$$w=au+bv$$
と置けば、
$$w_{tt}=au_{tt}+bv_{tt}$$
です。
したがって、
$$w_{tt}=ac^2u_{xx}+bc^2v_{xx}=c^2w_{xx}$$
となります。
よって、$w$ も波動方程式の解です。
これを重ね合わせの原理といいます。
複数の波が同じ場所で出会うと、それぞれの変位が足し合わされます。
山と山が重なると、より大きな山になります。
山と谷が重なると、互いに打ち消し合います。
このような現象を干渉といいます。
理想的な線形波動方程式では、波は重なっている間だけ足し合わされ、通過後は元の形に戻って進み続けます。
エネルギーが保存される
波動方程式のエネルギーを、
$$E(t)=\frac12\int_{\mathbb R}\big[u_t(t,x)^2+c^2u_x(t,x)^2\big]\,dx$$
と定めます。
第1項の、
$$\frac12\int_{\mathbb R}u_t^2\,dx$$
は、弦の運動エネルギーに対応します。
第2項の、
$$\frac{c^2}{2}\int_{\mathbb R}u_x^2\,dx$$
は、弦の変形による位置エネルギーに対応します。
エネルギーを時間で微分すると、
$$E'(t)=\int_{\mathbb R}\big[u_tu_{tt}+c^2u_xu_{xt}\big]\,dx$$
です。
波動方程式、
$$u_{tt}=c^2u_{xx}$$
を代入すると、
$$E'(t)=c^2\int_{\mathbb R}\big[u_tu_{xx}+u_xu_{xt}\big]\,dx$$
となります。
第1項を部分積分すると、境界項が消える場合には、
$$\int_{\mathbb R}u_tu_{xx}\,dx=-\int_{\mathbb R}u_{tx}u_x\,dx$$
です。
したがって、2つの項が打ち消し合い、
$$E'(t)=0$$
となります。
よって、
$$\boxed{E(t)=E(0)}$$
です。
摩擦や空気抵抗がない理想的な状況では、波のエネルギーは失われません。
運動エネルギーと位置エネルギーの間を行き来しながら、全体のエネルギーは保存されます。
これは、エネルギーが時間とともに減少した熱方程式とは対照的です。
境界で反射する
有限の長さを持つ弦では、波が端へ到達すると反射します。
例えば、長さ $L$ の弦の両端を固定すると、
$$u(t,0)=u(t,L)=0$$
という境界条件になります。
これを固定端境界条件といいます。
右へ進む波が固定端へ到達すると、上下が反転して左向きの波として戻ってきます。
一方、端が自由に動ける自由端では、波は上下を反転せずに反射します。
境界条件によって、反射する波の性質が変わるのです。
反射した波と進んできた波が重なることで、特定の場所が動かない定常波が作られます。
熱方程式のような平滑化は起こらない
熱方程式では、初期値に尖りや不連続があっても、正の時間がたつと解が滑らかになりました。
一方、波動方程式の解は、
$$u(t,x)=F(x-ct)+G(x+ct)$$
です。
最初の波形に角があれば、その角は左右へ運ばれます。
つまり、
$$\boxed{\text{波動方程式には、熱方程式のような強い平滑化効果がない}}$$
ということです。
波動方程式は、初期状態に含まれる情報を消すのではなく、別の場所へ運びます。
この意味で、
熱方程式は情報を忘れる方程式であり、波動方程式は情報を運ぶ方程式である。
と表現できます。
正弦波の解を調べる
波動方程式の具体的な解として、
$$u(t,x)=A\sin(kx-\omega t)$$
を考えます。
ここで、
- $A$ は振幅
- $k$ は波数
- $\omega$ は角振動数
です。
時間について2回微分すると、
$$u_{tt}=-\omega^2A\sin(kx-\omega t)$$
となります。
位置について2回微分すると、
$$u_{xx}=-k^2A\sin(kx-\omega t)$$
です。
波動方程式、
$$u_{tt}=c^2u_{xx}$$
を満たすためには、
$$-\omega^2A\sin(kx-\omega t)=-c^2k^2A\sin(kx-\omega t)$$
でなければなりません。
したがって、
$$\omega^2=c^2k^2$$
です。
右向きの波を考えると、
$$\boxed{\omega=ck}$$
となります。
この関係を分散関係といいます。
位相速度は、
$$\frac{\omega}{k}=c$$
です。
波数 $k$ によらず、すべての波が同じ速度 $c$ で進みます。
そのため、異なる波数を含む複雑な波形でも、理想的な1次元波動方程式では形を保って進めます。
このように、波数によって速さが変わらない波を非分散波といいます。
波の速さ・波長・周波数の関係
波の速さを $c$、周波数を $f$、波長を $\lambda$ とします。
1周期の間に、波は波長1個分だけ進みます。
周期を $T$ とすると、
$$c=\frac{\lambda}{T}$$
です。
また、
$$f=\frac{1}{T}$$
なので、
$$\boxed{c=f\lambda}$$
となります。
波の速さが一定なら、周波数が高いほど波長は短くなります。
反対に、周波数が低いほど波長は長くなります。
角振動数と周波数の間には、
$$\omega=2\pi f$$
という関係があります。
波数と波長の間には、
$$k=\frac{2\pi}{\lambda}$$
という関係があります。
したがって、
$$\omega=ck$$
と、
$$c=f\lambda$$
は同じ内容を表しています。
固定された弦と定常波
長さ $L$ の弦の両端を固定するとします。
境界条件は、
$$u(t,0)=u(t,L)=0$$
です。
変数分離法を使い、
$$u(t,x)=X(x)T(t)$$
と仮定します。
波動方程式へ代入すると、
$$X(x)T”(t)=c^2X”(x)T(t)$$
となります。
両辺を $c^2X(x)T(t)$ で割ると、
$$\frac{T”(t)}{c^2T(t)}=\frac{X”(x)}{X(x)}$$
です。
左辺は $t$ だけの関数、右辺は $x$ だけの関数です。
これらがすべての $t,x$ で等しくなるためには、両方が同じ定数でなければなりません。
その定数を $-\lambda$ と置くと、
$$X”+\lambda X=0$$
および、
$$T”+c^2\lambda T=0$$
が得られます。
固定端条件、
$$X(0)=X(L)=0$$
を満たす非自明な解が存在するためには、
$$\lambda_n=\left(\frac{n\pi}{L}\right)^2$$
でなければなりません。
空間方向の解は、
$$X_n(x)=\sin\left(\frac{n\pi x}{L}\right)$$
です。
時間方向の解は、
$$T_n(t)=A_n\cos\left(\frac{n\pi ct}{L}\right)+B_n\sin\left(\frac{n\pi ct}{L}\right)$$
となります。
したがって、各振動モードは、
$$u_n(t,x)=\sin\left(\frac{n\pi x}{L}\right)\left[A_n\cos\left(\frac{n\pi ct}{L}\right)+B_n\sin\left(\frac{n\pi ct}{L}\right)\right]$$
です。
これを固有振動モードといいます。
一般の解は、これらを足し合わせて、
$$u(t,x)=\sum_{n=1}^{\infty}\sin\left(\frac{n\pi x}{L}\right)\left[A_n\cos\left(\frac{n\pi ct}{L}\right)+B_n\sin\left(\frac{n\pi ct}{L}\right)\right]$$
と表されます。
固有振動数
第 $n$ モードの角振動数は、
$$\omega_n=\frac{n\pi c}{L}$$
です。
周波数は、
$$f_n=\frac{\omega_n}{2\pi}=\frac{nc}{2L}$$
となります。
最も低い周波数は、
$$f_1=\frac{c}{2L}$$
です。
これを基本振動数といいます。
それより高い振動数、
$$f_2=2f_1,\qquad f_3=3f_1,\qquad \cdots$$
は、倍音に対応します。
弦楽器で特定の音程が生まれるのは、固定された弦に許される振動数が離散的に決まるためです。
弦を短くすると $L$ が小さくなるため、周波数は高くなります。
弦の張力を大きくすると $c$ が大きくなるため、やはり周波数は高くなります。
定常波とは何か
右向きの波と左向きの波を考えます。
$$\sin(kx-\omega t)$$
と、
$$\sin(kx+\omega t)$$
を足すと、三角関数の公式より、
$$\sin(kx-\omega t)+\sin(kx+\omega t)=2\sin(kx)\cos(\omega t)$$
となります。
したがって、
$$u(t,x)=2\sin(kx)\cos(\omega t)$$
という形の解が得られます。
この波では、波形全体が左右へ移動するのではありません。
各場所が上下に振動し、常に動かない場所が存在します。
このような波を定常波といいます。
$$\sin(kx)=0$$
となる場所では、すべての時刻で、
$$u(t,x)=0$$
です。
この動かない点を節といいます。
一方、振幅が最大になる場所を腹といいます。
弦楽器や管楽器では、この定常波が音の高さを決めます。
時間を逆向きにしても解になる
$u(t,x)$ が波動方程式の解だとします。
新しい関数、
$$v(t,x)=u(-t,x)$$
を考えます。
時間について2回微分すると、
$$v_{tt}(t,x)=u_{tt}(-t,x)$$
です。
位置について2回微分すると、
$$v_{xx}(t,x)=u_{xx}(-t,x)$$
です。
もとの関数 $u$ は、
$$u_{tt}=c^2u_{xx}$$
を満たすので、
$$v_{tt}=c^2v_{xx}$$
も成り立ちます。
したがって、$v$ も波動方程式の解です。
これは、理想的な波動方程式が時間反転対称性を持つことを意味します。
摩擦のない理想的な弦の映像を逆再生しても、やはり波動方程式に従う運動に見えます。
一方、熱方程式では細かな情報が失われるため、時間を逆向きに戻す問題は非常に不安定でした。
熱方程式と波動方程式の違い
熱方程式と波動方程式は、どちらも空間について2階微分を含みます。
しかし、時間微分の階数が異なるため、性質は大きく異なります。
方程式の形
熱方程式は、
$$u_t=\kappa u_{xx}$$
です。
波動方程式は、
$$u_{tt}=c^2u_{xx}$$
です。
初期条件
熱方程式では、通常、
$$u(0,x)=f(x)$$
という初期状態を与えます。
波動方程式では、
$$u(0,x)=f(x)$$
に加えて、
$$u_t(0,x)=g(x)$$
という初期速度も必要です。
基本的な働き
熱方程式は、凸凹を消して平均へ近づけます。
波動方程式は、凸凹や振動を別の場所へ運びます。
伝播速度
熱方程式では、数学上は影響が瞬時に全空間へ届きます。
波動方程式では、影響は有限速度 $c$ で伝わります。
エネルギー
熱方程式では、適切なエネルギーが時間とともに減少します。
波動方程式では、摩擦のない理想的な場合、エネルギーが保存されます。
平滑化
熱方程式では、粗い初期値も正の時間がたつと滑らかになります。
波動方程式では、初期値の角や不連続が基本的にそのまま運ばれます。
時間反転
熱方程式を時間について逆向きに解く問題は不安定です。
波動方程式は理想的には時間反転対称性を持ちます。
まとめると、
$$\boxed{\text{熱方程式は情報を忘れ、波動方程式は情報を運ぶ}}$$
と表現できます。
波動方程式はどこに現れるのか
波動方程式は、弦の振動以外にもさまざまな分野に現れます。
音波
音は、空気の圧力や密度の小さな変化が空間を伝わる現象です。
振幅が十分小さい場合、空気中の圧力変化は波動方程式によって近似できます。
音速は、空気の弾性と密度によって決まります。
地震波
地震が発生すると、地下の岩盤の変形が波として伝わります。
地震波には、進行方向に平行な振動を持つP波と、進行方向に垂直な振動を持つS波があります。
実際の地震波はベクトル値の弾性波動方程式によって記述されます。
水面波
水面の上下運動も波として伝わります。
ただし、水面波では波長によって伝わる速さが変化することがあります。
そのため、単純な1次元波動方程式よりも複雑な分散関係が現れます。
電磁波
マクスウェル方程式から、真空中の電場と磁場が波動方程式を満たすことを導けます。
真空中では、電磁波の速さは光速 $c$ になります。
光も電磁波の一種です。
重力波
一般相対性理論では、時空の小さなゆらぎが波として伝わります。
弱い重力場の近似では、重力波も波動方程式に似た方程式を満たします。
量子力学
量子力学の基本方程式であるシュレーディンガー方程式は、古典的な波動方程式とは異なります。
しかし、波の重ね合わせ、干渉、固有振動モードなど、波動方程式で学ぶ考え方が量子力学にも現れます。
高次元の波動方程式
空間が1次元ではなく、2次元や3次元の場合には、波動方程式は、
$$\boxed{u_{tt}=c^2\Delta u}$$
となります。
ここで $\Delta$ はラプラシアンです。
2次元では、
$$\Delta u=u_{xx}+u_{yy}$$
です。
3次元では、
$$\Delta u=u_{xx}+u_{yy}+u_{zz}$$
となります。
2次元の波動方程式は、太鼓の膜の振動などを表します。
3次元の波動方程式は、音波や電磁波などの空間的な伝播を考えるときに現れます。
少し発展:波動作用素
波動方程式は、波動作用素を使って簡潔に書けます。
波動作用素を、
$$\Box=\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial t^2}-\Delta$$
と定義します。
すると、波動方程式は、
$$\boxed{\Box u=0}$$
と表せます。
この記号 $\Box$ は、ダランベルシアンと呼ばれることがあります。
波動作用素は、空間だけでなく時間も含む作用素です。
相対性理論や場の量子論では、この作用素が重要な役割を持ちます。
波動方程式の本質
ここまでに見てきたように、線形波動方程式、
$$u_{tt}=c^2u_{xx}$$
には、次の7つの重要な性質があります。
- 波を右向きと左向きの成分に分けられる
- 影響が有限速度 $c$ で伝わる
- 理想的な波は形を保って進む
- 複数の波を重ね合わせられる
- 摩擦がなければエネルギーが保存される
- 境界で反射し、定常波を作る
- 熱方程式のような強い平滑化が起こらない
これらの性質は、波動方程式が振動を消すのではなく、空間の中を運ぶ方程式であることから生まれます。
右向きの波、
$$F(x-ct)$$
と、左向きの波、
$$G(x+ct)$$
を組み合わせることで、さまざまな波の運動を表せます。
熱方程式では、細かな情報が時間とともに失われました。
一方、理想的な波動方程式では、初期状態の形やエネルギーが保たれながら空間を移動します。
したがって、波動方程式の本質は、
$$\boxed{\text{力によって生じた振動を、有限速度で空間へ伝えること}}$$
だといえます。
弦楽器の音、空気中の音波、地震波、電磁波など、一見異なる現象の背後には、同じ波動方程式の構造が存在します。
よくある質問
波動方程式とは何ですか?
波や振動が空間を伝わる様子を記述する偏微分方程式です。
1次元では、
$$u_{tt}=c^2u_{xx}$$
と表されます。
波動方程式の $c$ は何を表しますか?
$c$ は波が伝わる速さです。
弦の振動では、
$$c=\sqrt{\frac{T}{\mu}}$$
で決まり、張力 $T$ が大きいほど速く、線密度 $\mu$ が大きいほど遅くなります。
なぜ初期速度が必要なのですか?
波動方程式は時間について2階の方程式だからです。
物体の位置だけでは、その物体がどちら向きに動いているか分かりません。
初期変位と初期速度の両方を指定することで、その後の運動が決まります。
ダランベールの公式とは何ですか?
初期変位 $f$ と初期速度 $g$ から、1次元波動方程式の解を表す公式です。
$$u(t,x)=\frac{f(x-ct)+f(x+ct)}{2}+\frac{1}{2c}\int_{x-ct}^{x+ct}g(y)\,dy$$
という形をしています。
波動方程式では波の形は変わらないのですか?
理想的な1次元波動方程式では、右向きや左向きの波は形を保って進みます。
ただし、実際の物質では摩擦、非線形性、分散などによって波形が変化することがあります。
波動方程式と熱方程式の違いは何ですか?
熱方程式は温度分布の凸凹を消し、解を滑らかにします。
波動方程式は振動や形を有限速度で運び、理想的な場合にはエネルギーを保存します。
波動方程式ではエネルギーが必ず保存されますか?
摩擦や外力がなく、境界からエネルギーが流出しない理想的な条件では保存されます。
空気抵抗、摩擦、減衰項などがある場合には、エネルギーは時間とともに減少します。
定常波とは何ですか?
右向きの波と左向きの波が重なることで生じる、波形が空間を移動しない振動です。
常に動かない節と、大きく振動する腹が現れます。
波動方程式は時間を逆向きに解けますか?
理想的な波動方程式は時間反転対称性を持つため、数学的には時間を逆向きにしても同じ形の方程式になります。
これは、時間を逆向きにする問題が不安定な熱方程式との大きな違いです。

コメント